機械翻訳(MT)の精度は日に日に向上、また自動翻訳ツールもすさまじい進歩を遂げています。それに伴い、自動翻訳後に人の手によって編集・修正を行う、といった手法が広がってきています。
この人の手で行われるブラッシュアップのことを「ポストエディット(Post-Editing)」と呼びます。
今回はポストエディットとは何か、ポストエディットにおけるメリット、実際ポストエディットを行う際の手順についてご紹介します。
【目次】
- ポストエディットとは
- 自動翻訳とポストエディットを行うメリット
- ポストエディットを導入する上での注意点
- ポストエディットのやり方・進め方
- まとめ:ポストエディットを活用して生産性の改善(時間短縮、コスト削減)につなげる
ポストエディットとは
ポストエディットは直訳すると「後編集」。ポストエディットとはAI自動翻訳の出力結果を翻訳者が編集・修正することです。PEと略して表現されることもあります。ポストエディットを行うことで、訳文の品質を向上させることに繋がります。
昨今、AI自動翻訳の精度が飛躍的に向上。翻訳スピードはもちろん翻訳品質も向上しています。文章によってはAI自動翻訳後の訳文を編集せずともそのまま活用できる場合もあります。
しかし誤訳が一切なくなったわけではありません。またニュアンスの違いといったものを修正する場合には、人の手を介することが必要です。
AI自動翻訳にポストエディットを組み合わせることで、翻訳スピードの向上、コストダウン、翻訳の精度や質の向上が期待できます。
ポストエディットの確認事項は正確性・流暢性の観点から
ポストエディットにおいて確認すべき項目は「正確性」(Accuracy)と「流暢性」(Fluency)の2つの観点に分けられます。主語や時制の欠如、単数複数の判断といった誤りがないか、異なる意味になっていないか、といったことを見るのが「正確性」です。(「自動翻訳大全pp. 122~135を参照」)
もう一方で求められているのは「流暢性」(Fluency)です。「流暢性」とは何であるか、イメージしにくいかと思います。例を挙げてみてみましょう。
例文:
メールで返信ください。
Google翻訳の翻訳結果(2022年12月時点):
Please reply by email.
「reply by email」は命令形。その前後にpleaseをつけた英文は、命令とまではいきませんが、相手に押し付けるかのようなニュアンスを持っており、失礼な印象を与えてしまう可能性があります。
ビジネスシーンで使われる場合「Could you reply by email?」というようにCouldやWouldを使った言い方をする方が丁寧です。このように日本語を単に英語に置き換えただけの文は、情報の正確性は満たしていても、ニュアンスの違いにより違和感を与えかねません。
このように適切な言い回しなのかどうか、どう伝えるかといった部分が「流暢さ」(Fluency)となります。
つまり、ポストエディットをする際、品質を確認する際には「原文の意味と合っているか(正確性)」と「適切な伝え方ができているか(流暢性)」 – 主にこの2つの観点から考えてみましょう。
ポストエディットには2種類ある~フルポストエディット・ライトポストエディット~
ポストエディットはフルポストエディットとライトポストエディットの2種類にわけられます。
AI自動翻訳のポストエディットについて定められた国際標準規格ISO18587では、フルポストエディットを「人による翻訳によって得られる製品に匹敵する製品を制作するためのポストエディットのプロセス」、ライトポストエディットを「人による翻訳によって得られる製品に匹敵する製品を制作しようとすることなしに、単に理解可能なテキストを得るためのポストエディットのプロセス」と定めています。
フルポストエディットには、正しい表現や自然な言い回しになるまで十分な修正が求められています。それに対し、ライトポストエディットは文章として多少読みづらくても意味が通じればよいという程度までの修正です。つまり、フルポストエディットには正確性と流暢性の両面、ライトポストエディットは正確性の修正が求められています。
契約書、監査報告書など社外向けに使用される文書の場合は、フルポストエディットが必要。社内資料のようにスピーディーな情報共有を目的とした文書や情報収集といったように大まかな訳や重要点の把握をする目的に場合は、ライトポストエディットで十分対応可能といったこともあるでしょう。
ポストエディットに時間をかけすぎてしまうと、AI自動翻訳による効率化・生産性向上のメリットが逓減される恐れがあります。翻訳を行う前に、必要とされているポストエディット(フルポストエディット・ライトポストエディット)のレベルを定め、翻訳作業者が共通の認識を持つことが重要です。
自動翻訳とポストエディットを行うメリット
AI自動翻訳とポストエディットの組み合わせだけでなく、従来のようにAI自動翻訳を使わず最初から人が翻訳を行うという選択肢もあります。
では人がイチから翻訳を行う選択肢でなく、AI自動翻訳とポストエディットを利用する。そのメリットとは何でしょうか。
翻訳作業時間を短縮できる
AI自動翻訳は人間の翻訳スピードをはるかにしのぐ処理速度で、多くの翻訳をこなすことが可能。人が何時間もかけて翻訳する作業を、AI自動翻訳は1分もかからずして終わらせることも。そのため、翻訳の作業時間を短縮することができるようになります。また、自動翻訳の精度が高ければ、ポストエディット作業が必要ない場合もあります。
プレスリリースや新商品の発表といった場合には翻訳にスピードが求められ、ビジネス成功の決定打にもなり得ます。ビジネスチャンスを逃さないためにもスピード感をもった翻訳が求められています。
コストを削減できる
機械が翻訳作業の大部分を行い、誤訳やニュアンスのチェックのみ人が行う場合、人件費を大幅に削減することが可能となります。
近年AI自動翻訳はビジネスでも実用的なレベルまで精度が向上しています。ポストエディットが必要な領域が狭まり、ポストエディットが必要でない場合もあります。
ポストエディットを導入する上での注意点
AI自動翻訳とポストエディットを活用すると、大きなメリットをうけられますが、注意すべきこともあります。
ポストエディットが不要となるもしくは軽微な修正で終えられるのは、AI自動翻訳の精度が高い場合に限られます。AI自動翻訳の精度が低いとポストエディットの方が時間やコストがかかることもあります。
また、ポストエディットには求められる2つのレベルがあり、全体的に修正が必要とされるフルポストエディットと、一部分だけを修正するライトポストエディットでは、文章の品質が大きく異なります。
ライトポストエディットの場合はコストやかける時間が比較的少なく終えられます。しかし、AI自動翻訳の質が悪い場合、ライトポストエディットであろうとも多くの修正が必要となる場合も出てきてしまいます。
歌詞や詩などの抽象的な文章、また心情がからんだ文章となると機械による翻訳は非常に難しくなります。明確な答えがなく、言葉に込められた意図や感情をくみ取り理解することが必要となるからです。
こういった場合には自動翻訳後に修正を行うポストエディットではなく、翻訳する前のプリエディットを行います。表現の曖昧性を排除するといったコントロールを原文に行い、機械が解釈しやすい形に変換を行ってからAI自動翻訳をかけることで品質を引き上げられる可能性が高まります。
ポストエディットのやり方・進め方
では実際にライトポストエディットをやってみましょう。英語を話す相手に、会食の提案メールを書くと想定し、以下の文をヤラクゼン上で翻訳にかけてみました。
―――
原文:
9/10に神奈川に行きます。農業のAI活用の可能性について議論がしたいです。不入斗町のレストランを予約しようと思いますが、ご都合はいかがでしょうか?
―――
2022/12/21 ヤラクゼン上での翻訳結果
- まず、一文目の「9/10」ですが、英語ではこのような表記はあまり見かけず、通じない可能性があるため、「September 10th」に修正します。
- 3文目の「不入斗町」が「Fruit Town」と訳出されているため、正しい読み方「Iriyamazu」に修正します。
- 4文目の「坂西 優」が「Yu Sakanishi」と訳出されているため、正しい読み方「Suguru」に修正します。
多言語サイトや外国人観光客向けに看板を設置するなどインバウンド対応などを進めている方も多いかと思います。地名や場所が誤訳されているようでは意味が通じませんし、外国人の方々は戸惑ってしまいます。人名や企業名も相手の失礼にあたらないよう、入念に確認するようにしましょう。
ポストエディットする箇所をハイライト表示できるチェックアシスタント
上記でポストエディットの例を見てみましたが、実は他にもポストエディットする際に気を付けるべきポイントはたくさんあります。
ヤラクゼンには機械翻訳が間違いやすい項目をハイライトする機能「チェックアシスタント」が搭載されています。固有名詞や代名詞、数字やスペルミスなどをハイライト表示できます。ぜひ活用してみてください。
詳しくはこちら→ヤラクゼン ver 4.2.0 新機能のご案内【チェックアシスタント】0:24~1:30
https://youtu.be/NrtO7v1sglw
まとめ:ポストエディットを活用して生産性の改善(時間短縮、コスト削減)につなげる
自動翻訳とポストエディットを活用すると、翻訳者がイチから翻訳する場合に比べて、コストや時間の削減が期待できます。
AI自動翻訳を導入済みでうまく運用したいとお考えの方、またAI自動翻訳の導入を検討されている方は、ポストエディットの活用をおすすめします。
オンライン翻訳プラットフォーム「ヤラクゼン」はプリエディット&ポストエディット機能搭載しており、翻訳を行うだけでなく、その後のポストエディットも効率的に行い、業務改善につなげることができます。
また、AI自動翻訳後のポストエディット、「自分で手直しする時間がない」「そもそも訳文の正誤がわからない」といった方もご安心ください。
オンライン翻訳プラットフォーム「ヤラクゼン」ではポストエディットに特化した翻訳マーケットプレイスを利用することができます。ヤラクゼン上でAI自動翻訳をした後に、提携する大手翻訳会社にポストエディットの相見積もり、及び発注ができるようになります。これにより、原文を一から翻訳会社に依頼するケースと比べ、コストを最大90%カット、スピードを最大70%アップさせることが可能となります。
この記事の執筆者:八楽株式会社ライティングチーム
翻訳者や自動翻訳研究者、マーケターなどの多種多様な専門分野を持つライターで構成されています。各自の得意分野を「翻訳」のテーマの中に混ぜ合わせ、有益な情報発信に努めています。